上野孝内航総連会長とうみを語る 対談(8/10)

 7月18日の「海の日」を迎えるに当たり内航海運新聞社の対談に出席。上野 孝日本内航海運総連合会会長との対談を行ないました。
 その記事を編集・掲載をしました。

 東日本大震災を経て第16回『海の日』を迎える中で、海事立国における海事振興連盟と内航海運総連合会の役割について語りました。


《東日本大震災と第16回「海の日」について》

 

 ――海の恩恵への感謝と海洋国日本の繁栄を願う国民の祝日「海の日」は、第16回目を迎えることになりました。くしくも今年は想像を絶する東日本大震災と大津波、さらには福島原発事故のトリプル災害の中で迎えることになりました。このような環境の中での「海の日」を国民に対して、どのように祝ってもらいたいとの想いでしょうか。

 まず、衛藤先生に伺います。被災者へのお見舞いの言葉や海洋基本法の精神にも触れ「がんばれ日本」など復旧・復興への期待や支援も含めてお話しください。

 

 衛藤 さる3月11日に発生した東日本大震災。これは、地震と津波と福島原発事故、それに風評被害と、四重苦のまさに国難ともいえる大震災でして、まず被災された方々にお見舞いを申し上げ、亡くなった方々へのご冥福をお祈りしたいと思います。

 特に海とともに生きておられる海事関係の方々への甚大な被害と犠牲が生じたことは、極めて痛恨の極みでありまして、重ねてお見舞いとお悔やみを申し上げます。

 また、このたびの東日本大震災において、東北地方の物流機能が一部麻痺した中で、被災地の物資輸送に海上輸送が大きな役割を果たしました。このことは国民の皆様が改めて内航海運の重要性を再認識する重要な契機になったと思われます。

 今年の海の日は、東日本復旧、復興に向けて頑張っている東日本の被災された海事都市への応援をいただくとともに、海洋国家としての日本、海洋国家としての日本の「海との関わり」についてさらに深く問い直す、あるいは考え直すという「海の日」にしていただきたいと思っています。

 

 ――内航総連としての東日本大震災への対応や被害状況の概要説明。そして、海の日の意義と国民への啓蒙の必要性などをお話しください。

 

 上野 まず、今回の大震災で犠牲になられた方々に謹んでお悔やみ申し上げるとともに、被災して今なお厳しい状況にある方々にお見舞い申し上げます。

 内航総連は3月11日の震災当日に私を本部長とする「東北地方太平洋沖地震災害対策本部」(4月1日より「東日本大震災対策本部」に名称変更)を設置し、5組合の会長と内航総連の理事長にも本部員として加わっていただき、内航総連全体として被災者の救援と復興支援に取り組む体制を整えました。また、少しでも被災した方々へのお力になればと思い、日本赤十字社を通して1千万円の義援金を贈らせていただくことにしました。

 業界の具体的な対応としては、震災後直ちにRORO船、コンテナ船、ガット船など緊急輸送に対応できる候補船を用意して、国交省に申し入れました。ただ、震災直後は被災地の港湾で岸壁や荷役設備の損壊があったほか、港内の水面や航路を津波の残骸が塞ぐなどして、船舶が入港できない状態でした。

 しかし、関係各方面のご尽力により状況が改善されたのに合わせて、3月21日に内航タンカーがガソリン・灯油・軽油合計約2千KLを、被災した塩釜港へ緊急輸送したのを手始めに、23日には仙台港、八戸港にRORO船や自動車船が緊急支援物資を輸送するなど、内航船による輸送活動が進展しました。

 4月末までの50日間に行った緊急輸送量は、燃料油、LPGなど約205万KL、家畜用飼料約6万2千トン、建設機械、緊急車輌など車輌約230台を含めて、総計210万トンの輸送にのぼりました。

 一方で、内航事業者自体が今回の震災で大きな被害を受けました。特に内航海運は東北出身の船員がたくさんおられるということで、現時点で判明している被害状況は、船員の死亡・行方不明53名、陸上職員の死亡・行方不明4名、家族の死亡・行方不明182名にのぼりました。

 船舶については、全損2隻、部分損壊13隻で合計15隻ですが、内航海運の全体の隻数からいうと、相当少なくてすんだということが言えると思います。会社建物については、全壊10社、部分損壊28社にのぼります。

 これに加えて、航路の休止や貨物の減少により、内航海運事業者にとって経営的な影響は今後も続くことが懸念されています。先般、海事振興連盟など関係各方面のご尽力により臨時特例法が成立し、?被災代替資産等(船舶)の特別償却、?被災船舶に代替する船舶を取得する場合の登録免許税の特例、?被災事業用資産の損失の必要経費算入の特例、?阪神・淡路大震災時と同様の税制特例措置の設定には対象として船舶を明記していただくという、4点が認められました。

 われわれ業界としても政府などにお願いしていますが、事業者としては今後も経営面での影響に注意を払う必要があると思います。

 「海の日」は特に海事振興連盟の先生方が中心になって平成7年に制定され、平成8年から施行されました。その由来は、明治9年に明治天皇が灯台巡視船「明治丸」で東北地方を巡幸されて、7月20日に横浜に帰港されたことによるもので、海の恩恵に感謝するとともに、海洋国家日本の繁栄を願うことが祝日としての趣旨であると承知しています。このような海に関わる祝日を設けているのは、世界でも日本以外にほとんど例がないと聞いており、海に関わる者として誇らしく思います。

 今回の被災に関連して漁業関係の方だと思いますが、自分の家族も身近な方も犠牲になられて、そのうえで「私は海をうらまない」ということを言われていた。やはり、海に守られて今まで生きてきた。そしてこれからも海に守られて生活していかなければならない。

 こういうことがあったけれど、やはり長い歴史の中で海に守られてきたという想い、そしてこれからも海の恩恵にあずかって生きていかなければならないという、そういう方の海に対する気持ちというものを伺って、大変感動しました。われわれもそういう方々と同じ立場になるわけです。

 今年の「海の日」は7月18日になりますが、4か月前に未曾有の大震災を経験したばかりで、襟を正す思いです。内航海運の果たすべき使命を改めて認識するとともに、内航海運の重要性を国民各層に理解していただけるよう、内航総連としても啓蒙活動に努めていきたいと思います。

 

 ――有史来、未曾有の大震災への政府対応の遅れで、現政権は混迷した状況にあります。超党派で構成されている「海事振興連盟」としての復興支援の役割や、政府への政策提言があるとすれば何でしょうか。

 

 衛藤 海事振興連盟では震災後の4月19日と6月9日の2回にわたって臨時会を開催して、今度の震災に対する取り組みについて議論を行いました。

 4月19日の臨時会においては、海に関わる産業の1日も早い復旧復興のため、被災地の瓦礫、海上漂流物等の処理。あるいは被災海事関連事業者への支援、そして原子力発電所事故による風評被害対策等に全力で取り組む、まさに海からの日本の復興を目指すという、特別決議を採択しました。

 この決議は9点ありますが、1点目は、陸上と海中の瓦礫・海上漂流物等の処理および震災により遮断されている航路の復旧に全力で取り組むということ。

 2点目は、被災代替船舶の取得を行う際の法人税の特別償却、あるいは被災した船舶の再建造に係る登録免許税の免除。被災代替船舶の固定資産税の特例の拡充、被災代替施設等の取得の不動産取得税と登録免許税の減免、被災代替施設等の割増償却制度の適用・拡充等、被災事業者に対する税制支援策の整備を推進する。

 3点目は、被災した船舶、造船所、港湾設備、倉庫建造物等への復旧・復興のため被災事業者に対する金融支援策を始めとする支援策に全力で取り組む。

 それから大事なことは4点目として、事業者支援、被災者の再就職支援等の雇用対策に全力で取り組むということ。

 5点目は、IMO等国際機関が発出した日本の港湾は安全である旨の文書の在京商工会、在京大使館、外国等への周知や、東京港・横浜港等の放射線量測定情報の公表。あるいはコンテナ・船舶への証明書の発行等、原子力発電所事故による海上に係る風評被害対策に全力で取り組む。併せて海運・造船・舶用工業等における原子力発電所事故による経済被害対策に全力で取り組むこと。

 そして6点目に、政府の電力需給緊急対策における港運事業および倉庫業を始めとする海事関連産業への特段の配慮に努めること。

 7点目は、港湾機能、海岸保全機能の早期回復を図るため、国の復旧・復興方針の速やかな策定およびその実現の推進に全力で取り組むこと。

 8点目は、被災企業の事業再開スケジュールに間に合うように、岸壁、航路、泊地、防波堤、荷役機械、上屋など港湾の早期復旧・復興に全力で取り組むこと。

 最後の9点目として、台風期に高波浪による浸水被害を防止する。そのために、われわれとしては津波対策、減災効果を発揮した防波堤や防潮堤の計画的な復旧に全力で取り組む。

 以上を私どもが4月19日に臨時会で決議しまして、この決議に基づいて要所要所に要請を行ったわけです。そして6月9日の臨時会において、再度4月19日の特別決議がどれほど前に進んでいるかという総点検を行ったわけです。

 これからも海事振興連盟としても取り組まなければならない点が多々あります。とりわけ政府に申し上げたいことは、復旧・復興に向けた組織とか機構の割り当て、分担表はできているのですが、最も大事なことは人事の割付、振り付けが細かくできていないところがあることです。

 例えば、私が5月7日に気仙沼の造船工業会のみなさんと現地で話をした時に、3月11日に震災が起こって5月7日となるのに、私が皆さんと『気仙沼の造船の復旧のために、県の誰が責任者ですか』、あるいは『東北地方整備局の誰が担当者で』、『東北運輸局の誰が担当者ですか』、また、『金融支援に際して日本政策金融公庫の東北支店の担当者は誰ですか』、『気仙沼市の担当者は誰ですか』、『県の担当は誰ですか』と聞いても、全然分からないということでした。

 確かに県に話をした、国と話をしたというのに全然つながっていない。結局、くるくる回っているだけで責任者が決まっていない。これじゃダメだということで、私はすぐに海事局長と話をして船舶産業課長を呼んで、まず『貴方が国の担当だ』、『運輸支局の担当は誰』、『市の担当は誰』、『県の担当は誰』、『政策面の政策金融公庫は誰』が担当するかということの一覧表を作って出して欲しいとお願いした。そしたら、もう9日にはそれができてきました。

 そして、それがすぐに気仙沼に届きました、そしたら皆一気に大喜びして、「いやー、衛藤さんお陰様で一気に動き出しましたよ」ということでした。組織とか機構とかの割り振りは決まるが、誰が気仙沼の造船工業会担当の責任者なのか、誰に一任するかなどを決めてなかったために全く動いていなかったのです。これは1つの例です。

 同じことは全分野に言えることです。きめ細かい対応、点検、フォローアップ、それらを政府にわれわれが要請するだけではなく、われわれが国・地方の行政を点検するということが大事だと、このように思いました。

 国会議員が現地に入っている、知事に会う、市長に会う、何度も何度も同じことを繰り返しているわけですが、その下にきめ細かい指示が出ていないので、地元はいらいらしているわけです。

 ても、2,500万います。

 

 ――昨年来、現政権による政策転換(高速道路の無料化・暫定措置事業の早期解消・カボタージュ制度の撤廃など)で内航海運業界は、大きく震撼してまいりました。そして、3・11東日本大震災を受けました。内航総連として、海事振興連盟を介して、政府にどのような対策を望んでおられますか。

 大震災に関わる要望に加え、カボタージュ制度が非常事態に、いかに必要であったかも加えてお話しください。

 

 上野 私どもがお願いしていることは、ほとんど海事振興連盟において取り上げていただいて、政府に対して要望をつないでいただき、そのほとんどが実現している状況です。そのことについて、海事振興連盟の親身なご支援に対して、厚く御礼を申し上げる次第です。

 航路の安全確保や港湾機能の回復については、関係各位のご尽力で状況はかなり改善されてきていますが、まだ十分とは言えない状態です。航路については、津波で流されたイカダ、漁網、残骸、流木などが、三陸沖を中心に広範な海域で水面下に多数漂流しており、レーダーにも映らないことから、航行の大きな障害になっています。これら障害物の除去、および損壊した灯台や流失した航路標識の早期復旧をお願いしたいと思います。

 福島原発問題も深刻です。まずもって早期の事故解決をお願い申し上げます。現在、20?の航行禁止区域が設定されており、これを迂回するよう航行警報が発令されていますが、内航海運としては迂回による燃料消費の増加や航海時間の増大という問題があります。

 先般、原子力損害賠償紛争審査会の第一次指針で、迂回費用も賠償の対象となることが決まりましたので、今後、行政当局のご協力を得ながら、事業者に大きな損害が出ないよう、内航総連として対応を進めていきたい。併せて、福島原発関連の詳細な情報提供を引き続きお願いしたいと思います。

 港湾については、被災港湾の利用可能なバースはまだ40%と言われており、復旧はまだ道半ばという感じです。損傷した岸壁の早期復旧とともに、港湾内の漂流物や沈船の処理、ガントリークレーンなど荷役機器の修復、アクセス道路の補修などをお願いしたい。

 カボタージュ制度については、最近、単なるコスト論的な観点から制度の緩和を求める意見が一部に見られます。しかし、国家の安全保障や国民経済の安定という視点を捨てて、コストだけで内航海運を論じることは片手落ちと言わざるを得ず、非常に危ういものを感じています。

 今回の東日本大震災では、福島第一原子力発電所の重大事故により、一部の外国船が京浜港などへの寄港を忌避するという混乱が発生して、まさにそうした危惧が現実のもとなり得ることを、いみじくも示す形になりました。

 また、震災後まだ日の浅い時点で、復旧が十分とは言えない被災地の港湾に緊急輸送を実施した内航船において、乗組員が非常な覚悟をもって輸送に取り組んだという経験談を聞き、深く感銘を覚えるとともに、これが外国船であれば、果たしてここまでのことができたであろうかという疑問を禁じ得なかったものです。日本船でなければ緊急時の輸送態勢を維持することが困難ということが現実のものとなったと実感しています。

 カボタージュ制度は国家の安全保障や国民経済の安定に欠かせないものであり、その故にこそ、世界の多くの国々でカボタージュ制度が実施されている点を再認識する必要があります。内航海運というものが非常時において、日本のためになっているということをひしひしと感じたわけで、日本のためにわれわれの内航海運業界が存続しなければならないということを痛感しました。われわれとしても内航海運業界が理解されるよう、努力していかなければならないと感じました。

 

 ――上野会長からも海事振興連盟は非常にお役に立っていただいたというお話がありましたが、これらについて衛藤先生からご感想などを伺いたいのですが。

 

 衛藤 大震災後から上野会長、内航海運の皆様から速やかに対応をとるようにといろいろご要望があって、私もそれをジッと見据えながら4月19日に臨時会を開いて、それぞれの要求・要望項目を決議しました。

 具体的には、この要望事項を「東日本大震災の被災者等に関わる国税関係法律の臨時特例に関する法律」という、いわゆる震災関連税制に関する法律が施行されています。

 これが4月27日に成立し、施行されたわけです。特に被災代替船舶の取得を行う際の法人税の特別償却とか、被災船舶の再建造に係る登録免許税の免除、被災代替船に係る固定資産税の特例の拡充等が適用可能と、こういったことが具体的に成果として出たということです。

 それから、航路の安全機能あるいは港湾機能の回復は喫緊の課題です。これは国交省、海上保安庁、双方と協力をしながら取り組みをしています。

 福島第一原子力発電所の事故については、「原子力損害賠償紛争審査会」におきまして、内航船の20?迂回、航行規制区域の迂回のために、大変なコスト増、あるいは減収が見込まれるわけですから、これを4月28日に公表された「原子力損害賠償紛争審査会」における、第一次指針に基づいてしっかりとした対応をするように、われわれとしても強く要求していきたいと思っています。

 また放射線の問題では私どもはかねてから、放射線量測定器を内航関係者の皆さんにそれぞれ配置をしたらどうか、充分な数をそれぞれお持ちいただくようにしたらどうかと思っています。そして国の行う放射線量の正確な情報提供も大事です。

 実際海上を航行している、皆さんが自分で測れば分かることです。しかも、放射線量測定器は1台5万円も出せば相当優秀なものが手に入るわけですので、それらを国で配布したらどうか。例えば福島県民に対しては、あれだけの予算措置をして全部に持ってもらおうと言っているわけですので、海のほうもやったらどうかと言っていますので、これは実行していくべきでしょう。

 したがって、風評被害に充分耐え得るしっかりした情報を提供していかなければならないと思っています。

 カボタージュ制度についてはわが国の安全保障、治安維持の上からも、また、上野会長のご指摘のとおりに経済安全保障上の観点からも、カボタージュ制度を堅持するということは絶対に必要なことです。

 これについては、しっかりとした対応をとっていきたいと思います。今回は内航船が動いたから良かったですが、外国船が京浜港への寄航を忌避するという動きが出てきたわけですから、これは由々しき問題です。こんなことを考えただけでもカボタージュ制度は今後もしっかり堅持していかなければなりません。

 

 ――内航として、復興物資支援輸送はこれからが本番です。被災地の復旧・復興のために、何を急ぐべきか。また、福島原発の廃炉決定で電力不足が社会問題となっています。代替エネルギーの対応が急務となっており、長期エネルギー政策が待たれています。

 衛藤先生、これをどのようにみておられますか。また、国が担うべき課題があればお話しください。

 

 衛藤 内航海運は国内物流の3分の1、それから産業基礎物資の約8割を担っている、日本経済や国民生活を支える重要な輸送機関です。

 東日本大震災においても、被災地への緊急物資輸送、タンカーによる燃料輸送を行ったわけですが、改めて内航海運の重要性が再認識されたと思います。

 また、内航海運は輸送効率が極めて高く、環境面にも優れた輸送モードであり、今後の地球温暖化対策等の社会的行政の中でも、それに応え得ると環境にやさしい、これからの国民が求める輸送機関として、われわれとしては大いにこれを拡充していかなければなりません。

 また、内航海運を支える船舶の老朽化が問題です。これが今、7割以上の船舶が老朽化しているということで、これが急速に進んでおりまして、今後も安定的な輸送量を供給し続けるために、代替建造の促進が喫緊の課題です。

 内航船員も6割の方が45歳を超えているという高齢化が進んでいて、近い将来に著しい船員不足が見込まれます、ですから船員の確保・育成というものは、「国策」として喫緊の課題であると思っています。

 さらに、今後の内航海運の活性化について、競争力の強化や環境適用型産業への転換、今申し上げた若年船員の確保・育成、また業界が直面している問題にもわれわれとしては積極的に取り組んでいくつもりです。

 

 ――上野会長、復興需要への期待や対応策、今後の火力発電の見通しや政府に要望があるとすれば何でしょうか。

 

 上野 現段階では、被災地の生産拠点が甚大な被害を受けたため、震災直後は、4月の商品車の内航海運での輸送量が前年同月比で半分以下になるなど、輸送需要が軒並み大幅な減少となりました。今後、被災地の生産拠点が復旧するにつれて、内航輸送量も回復することを期待していますが、本格回復までにはまだかなり時間がかかるかもしれません。

 衛藤先生にお願いしたいことは、被災地で発生した大量の瓦礫処理という問題があります。現地で処理し切れないものについては、遠隔地の中間処理場または最終処分場まで輸送しなければなりませんが、膨大な輸送量になることが見込まれますので、内航海運としても積極的に協力していきたいと思っています。

 ただ、瓦礫輸送では、瓦礫の数量や性状などの物理的な問題だけでなく、国と地方自治体との役割分担など行政面でもクリアにしなければならない課題が多いようです。これだけ大震災から時間がたっているのに、まだ瓦礫の2割しか処理されていないわけですので、今後の行政の取り組みを見ながら、内航海運としての対応を進めることになると思います。

 火力発電向けの輸送需要に関しては、重大事故が発生した福島第一原発だけでなく、各地の原発が相次いで運転停止となっており、電力供給の3割を占める原発の再稼働に時間がかかるということになれば、電力供給は今年の冬、更には来年も厳しい状況が続くと思います。

 原子力の抜けた分を埋めるために、石炭、石油、LNGなど代替的な火力発電への需要が高まって、内航の燃料輸送も増大すると考えられます。われわれもこれに対処して船腹問題も考えていかなければなりませんが、しかし他方において震災による産業活動の低迷で電力需要が減少しているのに加えて、全国レベルでの節電などの動きを考えますと、一本調子での増加という図式にはならない可能性があります。

 また、原発事故に伴って、わが国のエネルギー基本計画の見直し議論も高まっており、このような動向を注意深く見守りたいと思っています。

 

《海事立国の中での海事振興連盟と内航の役割》

 

 ――非常事態にある今日、わが国経済社会も先行きに不安感を抱いた状態に陥っています。このような不透明なときに、海事振興連盟としてどのような事業を今後、重点的に展開していかれるのでしょうか。

 衛藤先生、海事立国のなかでの海事振興の不変性や海事振興から、国の再生につなげるなど、「勇気づけ」のお話しを含めてお願いします。

 

 衛藤 その前に、瓦礫処理、そして石炭やLNG等の燃料、内航が受け持たなければならない燃料輸送の問題についてご指摘がありましたが、非常に大事なことです。

 政府としても、今ご指摘があったように2割しかできていない。あとの8割の瓦礫処理をどうするのか、この瓦礫処理の2500万トンのうちのどれくらいを遠隔地に輸送して処理するのかとか、あるいは石炭やLNGの需要見込み量などを示して、内航にお願いしていかなければならないと思います。

 われわれとしては内航海運の構造改善は避けられないと思っています。構造改善を通じて業界を活性化する。そしてまた、事業の集約・協業化や船舶管理会社の活用化、あるいはスーパーエコシップなどの環境性能に優れた船舶の導入など、これらのことを内航海運にお願いしていかなければならないでしょう。

 そしてわれわれとして特にこれから力を入れていきたいことは、カポタージュ制度の堅持、これを特に訴えていきたいと思っています。

 

 ――上野会長、海事振興連盟の役割や存在意義に加え、内航海運の位置づけ高揚、さらに交通基本法制定との関連も含めてお願いします。

 

 上野 今回、内航総連としてのいろいろな面での対応を、もし外部からみて評価していただけるとすれば、それは海事振興連盟の衛藤先生をはじめ、皆さんのご支援があったからこそであると思っています。

 例えば政府としてみれば、内航がこの大震災の中でどのような役割を持っているのか、どういう要請があるのかということを、本当に理解されていた方がどれくらいおられたのか。

 そういう中で、内航海運が緊急時において大切な役割を果たすんだ。重要な復旧・復興に関する役割を持つんだということをきちっと認識していただいて、われわれのお願いしていることも含めて、十分かつスピーディーな対応をしていただけということが、内航総連としてその役割を果たせたという、1番大きな要因だと考えています。

 これについて、本当に感謝しなければならないと思っています。

 内航海運の位置づけについては、これも先ほど来、申し上げていることでして、そういう先生方のご支援をいただいて、われわれとしては100点満点とまでは言わなくても、この大震災という緊急時に対応して、皆さんが期待されているところを十分、達成することができたと考えています。

 今後の問題として、今はこういう状況で議論が下火になっていますが、交通基本法は、これから国会で審議が行われる段階と聞いていますが、交通とは人の移動だけでなく、モノの輸送すなわち物流という視点からみた交通基本法の制定をお願いしてきました。

 今回のことがあって、この中に内航輸送をはじめとして、モノの輸送の重要性をさらに謳っていただくことが必要ですし、国民の皆さんにもその重要性をわかっていただく契機とすることも大事だと思っていますので、この問題も新たな観点からスポットライトを当てていただきたいと思います。

 

 ――「がんばれ日本」という支援が世界から寄せられ、再建に向けて努力していますが、こと内航海運も規制や制度改革で一大転換期に入っています。最大事業である暫定措置事業の解消やカボタージュの規制緩和などで、業界内では、明日への希望を失いつつあるのが現状です。まさに「がんばれ内航」という時代に突入している感がありますが、どのようにみておられますか。

 上野会長、内航海運の実態説明と国への要望も含めてお話しください。

 

 上野 明日への希望を失いつつあるということですが、私は決してそうはみていません。特に今回の大震災において、内航海運がいかに重要な役割を果たしているかということが図らずも浮き彫りにされました。また、被災地の方々を中心に、一般の国民の方々からも内航海運が果たしている役割がいかに重要であるかということを、注目していただけるようになりました。

 それだけに、衛藤先生が言われたように、内航海運が船舶と船員の老齢化という2つの老齢化を抱えて、いったいどうするかという外部からの声と、われわれ業者自身も将来に対する不安感というものを払拭できるような、いろいろな方策を考えて実行していく機会を与えられたと思っています。

 そして、代替建造対策検討会の結論を踏まえて、平成28年度以降は交付金制度、免除制度、留保制度が廃止されて、暫定措置事業は大きく変わることになります。われわれを守ってくれていたものが全部なくなり、その寒風の中でどうしていけばいいのかという、考え方をされる方もいます。

 ですから、今までわれわれの権利を保障してくれたものということではなくて、暫定措置事業の今後はわれわれの業界の構造改善のためのインセンティブになるもので、そのためにはこの制度をどうしていけばいいのかという観点から、役所とも一緒になって考えていくつもりです。

 そして、それが新しい起爆剤になるようにしていくことが、われわれ業界人の使命だと思っていますので、今後の内航海運をさらに発展させるための起爆剤として今回の制度改革を考えていき、そして、それが実現できるように全力をあげて努力していきたいと思います。

 先の代替建造対策検討会の議論でも、内航業界以外の委員の方々も含めて、内航海運が必要であるという認識が共有されており、もっと抜本的なことをお願いしたほうがいいのではないか。新しい環境性能に優れた船が造れるのであれば、また、グループ化が進むのであれば、さらなるインセンティブを与えてもいいのではないかという、私自身が驚くような意見が出されました。

 やはり、外部の方からも、内航海運を生かすためにはどうしたらいいのかという話が出るような状況になってきました。委員の方も内航の実態を知れば知るほど、これは大事なものなんだ。われわれとしても応援していかなければならないということを、強く感じられているようです。

 われわれとしてもこれに励まされて、内航海運の新しい発展のための契機として、構造改善に邁進していかなければなりません。

 

 ――内航が抱える上野会長の話しにお答えていただくとともに、第16回「海の日」が国民にとって、海洋国日本としての啓蒙活動に意義があるなどのお話しをお願いします。

 

 衛藤 今、上野会長から業界の構造改善などのお話がありましたが、しっかりとした構造改善ができるような、国の支援策を引き続きとっていかなければならないと思います。

 それから、海の日は平成8年に「海の恩恵に感謝するとともに海洋国日本の繁栄を願う」という趣旨で祝日になりましたが、やはり祝日の日をもう少し浮き上がらせて、そして国民にまさに海に感謝し、海とともに生きる海洋国家日本、そういうことを意識付けていかねばならないでしょう。

 今年の「海の日」は7月18日ですが、東京湾船上閣議とか東京湾船上の国土交通委員会などをやるといいと思います。これはやろうと思えばできることです。とりわけ東日本大震災で津波を受けた特別な年ですので、「東日本と連帯すること」、あるいは「東日本と共生すること」、特に被災された地域の「海事都市との絆を強くしようということ」が大事です。

 そんなことを具体的にメッセージとして出して、東京湾船上閣議をやったぞとか、東京湾で国土交通委員会をやったとか、海事振興連盟として提案し、これを働きかけていかなければならないと思います。

 ――ご多忙の中、長時間ありがとうございました。